The Lost Sweets 開始宣言

English text below ↓

もう10日も経つのですね、あらためて10/18に赤坂dot & blueで開催した、トレヴェニアンの自伝的小説『パールストリートのクレイジー女たち』にインスパイアされたライブ、
Music From the book
“The Crazyladies of Pearl Street”
By Trevanian

にお越し下さった皆さま、ありがとうございました!

愛する小説への想いを込めて、DJ、解説、ピアノソロ、ジャズボーカルライブを掛け合わせたイベント。ご縁あって『パールストリートのクレイジー女たち』翻訳者の江國香織さんにも開催のご許可をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

一風変わった企画に乗って下さった粋なお客様たち、本当にありがとうございました!大変有り難いことにご好評をいただきまして、とても励みになります。

そして、この投稿をもってアナウンスさせていただきます。

浅川太平さんとはこの企画から遡ると、文学や映画にインスパイアされたイベントを今までに3回ほど開催してきましたが、これからはユニットとして活動していくことになりました!

ユニット名は、

“The Lost Sweets“

言語とは、引用、引用、引用のシステムに他ならないのです!と、ホルへ・ルイス・ボルヘスが言ったとか。

マルセル・プルースト『失われた時を求めて』第一篇では、語り手が紅茶に浸したプティ・マドレーヌを齧ったとき、過去の記憶と感覚が全てありありと甦ってくる。複雑な構文と多くの隠喩。メタファーだけが呼び起こすことのできる何か。

かと言って私たちは全く懐古趣味ではない。未来志向でもない。私たちが生きるのは今この瞬間。現在に生きる私たちが、とある時間軸に表出したとある作品を、どう読むことができるのか、それを皆さんと一緒に音楽を通して楽しんでゆきたいと考えています。

テクストは読まれる為にそこに存在する、いえ、読まれることによって初めて存在できる。読まれることによってテクストは創造され、解体され、再構築され、完成され、また解体され、それは半永久的に続いてゆく。そしてどう読むかは個々人に委ねられたとてつもない自由であり、悦びであります。

本の中は危険がいっぱい。良い子に本など読ませてはいけません。再びやってきた狂騒の20年代に寄せて。

Instagramのアカウントも新設しましたので、映画、文学、音楽好きの悪い子の皆さまにおかれましては、ぜひフォローよろしくお願いします!今までの活動をアーカイブしております。

https://instagram.com/the_lost_sweets?igshid=YTQwZjQ0NmI0OA%3D%3D&utm_source=q

I’m happy to announce that we created a new duo “The Lost Sweets”. We remix any lovely cultures from any times and places, then reread them happily together with you through music. Follow us on Instagram above!

ソフィア・コッポラ監督の映画音楽の世界を経て

あらためて、9/26関内Ben Tenutoでのライブにお越し下さった皆さまありがとうございました!

ソフィア・コッポラ監督の映画音楽を再解釈、再構築するというコンセプチュアルな試みで、DJセット、ピアノソロ、ボーカルライブの3部構成、この日の為に書いたプログラム付きでお届けしました。

私はジャズを歌ったり、別名義でポップスの曲を書いたり、ラップしてみたり、DJをしたり、文章を書いてみたり、周りからは色々なことをしているように見ていただくことも多いのですが、私自身の感覚としてはひとつのことをそれぞれ別の角度から表出させているだけなのです。

可愛くて、優しくて、グルーヴィーで、しなやかな世界。メランコリーと、悲劇を喜劇に変える錬金術の両立。

今回はLilla Flickaというアバンギャルドなペルソナすら必要とせず、全てが自然とひとつのイベントの中に収まりました。2回目のコロナ罹患からの病み上がり、いえ、罹患中から準備を始めましたが、体調の悪さを忘れさせてくれる豊かな時間でした。ライブ当日までに歌える体に戻っていったこと、支えて下さった皆さま、音楽のカミサマの采配に感謝です。今だから告白しますが、本当にギリギリでした(笑)

このイベントを開催させて下さったBen Tenutoさん、企画段階から携わって下さった浅川太平P(PはピアノのPそしてプロデューサーのP)、そして素晴らしき才能、ガーリーカルチャーというものを世に知らしめたソフィア・コッポラ監督に最上級の敬意と感謝を。エルヴィス・プレスリーの元妻を描いたという新作”Priscilla”も楽しみです。

いろいろな意味で夢のようだったソフィア・コッポラの映画音楽の世界はここでひと区切り。この企画ライブとは双子のまた別の企画ライブは10/18(水)赤坂dot&blueにて。

江國香織さんの名訳で日本でも広く知られることとなった作家、トレヴェニアンの自伝的小説をテーマにしています。こちらのライブは、ほぼジャズスタンダードのみでお届けすることになると思います。だって小説の中に収まりきらないほどのジャズが溢れているのだもの!

リアルタイムに流れていたガーシュウィン、ハート&ロジャース、コール・ポーター、ホーギー・カーマイケル…

スタンダードジャズファンの皆さまはお読みになられたら、その豊かさに驚かれると思います。

話をソフィア・コッポラ監督の映画音楽の方に戻して…各種SNSに少しずつアップしていた今回のイベントの動画やプログラムの文章を以下に纏めました。未見の方はぜひご覧いただけたら嬉しいです!

DJ set①

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid02ptLJx1mN22sUKwX9acnQb6JHuwX28DhVveBNpGfW492EQ8zhEoUSgFYEe4uVs3ZCl&id=100003921013469

DJ set②

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid0FhcfsRDVs3CpECEenEYcF3usPMjjF9gGCHVBfcczynjW2UXyXYN9NN3TauraJeMHl&id=100003921013469

DJ set③

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid0egCQrNVVq7zdo2RXGK6kgauaPP2W9F4tLQkpao43Sx9QxwxUWmeucnCsVwwFTmwul&id=100003921013469

Piano solo

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid0HrLHbdV2DvYaQN7Ru4vGU9htFQWTboMfZzwRAdvRn2nYscx6Y9cc6V8ZbsWEyJY2l&id=100003921013469

Vocal live 

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid02zETDC4GcSn6cwLsM19RoC86nJvxSYh2QF5jfuMuyQjS1khe1QTVDLHWt3vrXR5Pjl&id=100003921013469

【Piano Soloプログラム全曲解説】

< >の中は楽曲が使用された映画と登場時間

K. 213 (Sonata in D Minor) – Domenico Scarlatti

<Marie Antoinette 1:36:38>

このニ短調のソナタはマリー・アントワネットが憂鬱と退屈を持て余す場面で静かに奏でられる。曲が終わる頃には恋人のことを思い出して勝手に幸せな気持ちになり始めるというキュートな一面も。スカルラッティは1685生まれのイタリア出身の作曲家。音楽史上ではバロック期の音楽家であるとされているが、クラシック音楽の進化、発展に大きく貢献した。実際にヴェルサイユ宮殿の中でマリー・アントワネットが好んで聴いたり弾いたりしていたとされている。たった14歳の少女は政治的な理由から母マリア・テレジアの命により、フランス宮廷に嫁ぐことになる。世継ぎを産まなければならないという圧力、愛の不在、夫との友情、愛人、統治、権力闘争、噂話、孤独。そして彼女には(一時的には)湯水のごとく使えるお金があった。音楽は貴族の手習いであり、教養であり、暇つぶしであり、慰めであった。マリー・アントワネット自身もチェンバロやを歌を習い、貴族たちの前で披露することもあった。「やりすぎとか、使いすぎとか、そんなことってあるのかしら?」

The Air That I Breathe – The Hollies

<Virgin Suicides 0:16:16>

映画ヴァージン・スーサイズの物語は五女のセシリアが自殺未遂をするところから始まる。精神科医に、もっと娘たちに自由を与え、同世代の男の子たちと交流させるべきだと言われた母親は、これまでやったことのなかった最初で最後のホームパーティーを開催する。姉たちはセシリアの手首の傷をおもちゃみたいなたくさんのブレスレットをテープでとめて隠してあげる。パーティーで楽しそうにしている他の姉妹たちを尻目に、セシリアはずっと不満そう。もう自分の部屋に戻っていい?と母親に。母が許可を出した直後、今度は彼女は自殺に成功する。「煙草も、睡眠も、光も、音楽も、食べものも、本も、もう何もいらない。必要なのは君と愛を育むこと、そして呼吸するための空気だけ」

Aura Lee (Love Me Tender)

<The Beguilded 0:31:40>

アメリカ南北戦争の頃に誕生したとされるアメリカの大衆歌謡曲。舞台は南北戦争中、南部にある女性だけで運営している寄宿学校。女生徒が森の中で深く傷ついた北部の兵士を見つけ、見殺しにできず連れて帰って来る。最初は恐る恐る兵士の世話をしていた面々だが、唯一の男性の存在に少しずつぞれぞれの登場人物に変化が…、という場面で、女生徒のひとりがこの曲を口ずさむ。エルヴィス・プレスリーの”Love Me Tender”の原曲。”Aura Lee”とは、オーロラの光という意味。兵隊たちが故郷の恋人を想って歌ったとされる。「春が来て、ヤナギの上にはブラックバードがオーラリーを歌う。オーラリー、黄金の髪の少女、木々、太陽、飛び交うツバメ」

1 thing – Amerie

<Somewhere 0:13:14>

映画冒頭の15分でハリウッド映画のスター、ジョニー・マルコの生活が、たとえ華やかに見えたとしても、中身は空虚なものであろうことが淡々と描かれていく。15分の間に2回ポールダンサーたちをひとりで暮らしているホテルに呼び寄せる。2回目の音楽はこちらの 1 Thing、ドラムパターンが耳に残る2005年の世界的な大ヒットナンバー。ほぼフルレングスで流れる曲とダンサーたちの美しさが彼の生活の虚しさを際立たせる。アルコールと鎮痛剤。普段は別れた妻と暮らしている11歳の娘のクレオがやって来る直前の出来事。リズムオリエンティッドな名曲をあえて鍵盤のみで演奏するという意欲的な試み。「あれだけが私をトリップさせるの」

Smoke Gets In Your Eyes – Bryan Ferry

<Somewhere Ending>

本作のエンドロールのいちばん最後で流れるのがこの曲。11歳の娘クレオが去った後に初めて感情の揺れを見せるジョニー。元妻に電話をかけて、自分はどうしたらよいのか、自分は何者でもないと泣く。そばに来て欲しいと頼むが、それはできないと断られてしまう。でもあなたは大丈夫よ、と言う元妻。場面は変わってジョニーは慣れない自炊に挑戦、パスタを茹ですぎてしまう(きっと味も美味しくない)。住み慣れたホテルをチェックアウトし、フェラーリを飛ばして郊外へ。その後フェラーリも乗り捨て、歩き出した。「皆訊くんだよね、どうして僕の愛が本物だとわかるのかって。だから答えたよ、心の中に何か否定できないものがあるんだって。彼らはさらに言う、愛の火から立ち昇る煙で盲目になっているのだと。僕は笑った、この愛を疑うことができるなんて!でも今日僕の愛は去ってしまって、今度は皆が僕の涙を笑う番。だから笑顔を作って、消えた炎から立ち昂る煙が目にしみるんだよ、って言ったんだ」

【Vocal setプログラム全曲解説】

< >の中は楽曲が使用された映画と登場時間

I’m Not In Love -10cc

<Virgin Suicides 0:57:30>

歌詞では自分は恋なんかしていないと何度も繰り返しながら、恋の感覚に満ち満ちた曲。厳格な母親をなんとか説得して学園祭のダンスパーティーに行けることになった四姉妹(末っ子は既に自死した後の場面)。投票でベストカップルに選ばれたラックスとトリップを筆頭に、パーティー会場の陰でこっそりピーチリカーの瓶を回し飲みしたり、キスしたり。たくさんの弦楽器と効果音の層が重なりとてつもなく美しく響く原曲のフィーリングをリハーモナイズ(和音の響きを変えること)によって再解釈し、再構築を試みる。

So Far Away – Carole King

<Virgin Suicides 1:19:19>

末の娘の自殺、そして四女のラックスの朝帰りで気がおかしくなった母は、娘たちを家に閉じ込めて、学校に通うことさえ禁止する。そんな中、四姉妹を慕う男の子たちは、なんとか彼女たちとコミュニケーションを取ろうとする。通常の電話は取り次いで貰えない。そこで電話をかけて、何を喋らずレコードをかけ、メッセージを送る。電話ごしに姉妹から返ってきた曲は、”So Far Away”。「あなたはとても遠いところにいる。ずっと同じ場所にいられる人なんているのかしら?もしあなたが私の部屋のまえに来てくれたら、どんなに素敵なことでしょう。でもあなたはとっても遠いところにいる。そしてそれを知ることは、なんの助けにもならない」

Alone Again (Naturally)

<Virgin Suicides 1:18:36>

こちらも四姉妹と男の子たちがレコードをかけあってコミュニケーションを図ろうとしていた場面で。「もう少し経って、そのときに気分が少しでもよくなっていなかったらね、私は自分と約束したの、近くの塔を訪れるって。てっぺんに登って、そこから身を投げる。自分が取り残されて、ぼろぼろになっている感覚ってわかるかしら」絶望的な歌詞とは裏腹に、Gilbert O’Sullivanは明るくリズミカルに歌い上げる。

Teddy Bear

<Somewhere 1:03:53>

イタリアのテレビ番組でのひと仕事を終え疲労困憊、娘のクレオと一緒にロサンゼルスのホテルに戻ってきたジョニー。そこでホテルスタッフのロムロが1曲歌いましょうか?と声をかけてくる。ロムロが歌うのがこの曲はエルヴィス・プレスリーのヒットナンバー。優しい歌を親子が穏やかに聴く様子は本作の中でもいちばんスウィートな場面のひとつ。「ベイビー、僕を君のテディベアにして。紐をつけてどこにでも連れていって、髪を指に滑らせて、ぎゅうって抱きしめて、毎晩一緒だよ」

Magic Man – Heart

<Virgin Suicides 0:35:56>

四女のラックスと恋仲になるフィリップの登場シーンで。彼が歩くと学園じゅうの女の子たちが振り返る。遅刻しても、校内でマリファナを吸っても(!)その魅力によって許されてしまう。彼はラックスに恋をする。ラックスもすれ違った全ての男性たちを虜にしてしまうような小悪魔的で性的な魅力に溢れていて、それを自覚してもいる。退屈しのぎに男の子たちにちょっかい出してみたり。最初はフィリップを冷たくあしらうラックスだったけれど…。十代の男女のひりひりするような危うい関係。「彼が言うの、僕のことをまだ愛さなくてもいいから、ハイになろうよ。でも私はもう夢中で、ママはとても心配してるけど、でも彼って魔法が使えるの。ねえわかって、わかって、わかって」

I Fall In Love Too Easily – Chet Baker

<On the rocks 00:51> 

映画の冒頭、ビル・マーレイが演じる父フェリックスが、娘ローラに言う。「結婚するまでは君は僕のものなんだからね。いや、結婚した後も僕のものだな」

いきなり場面が変わってローラの結婚式。夫に促されてウェディングドレスのまま式場を抜け出すローラ。ベールを付けたままプールに飛び込む。ここまでずっとチェット・ベイカーの歌う”I Fall In Love too Easily”がかかっている。「自分は簡単に恋に落ちてしまう。その速度は速すぎるし、深すぎる、恋が永遠に続くためには」

It might as well be spring – Bill Evans Trio

<On the rocks 1:02:10>

ローラが父親にパーティーに連れ出される場面はビル・エヴァンストリオの名演。父フェリックスが登場するときにはほぼジャズスタンダードが流れてくる。NYの街には本当にジャズがよく似合う。父を待って手持ち無沙汰になりソファに座ったローラは老婦人の話に付き合わされることになる。「結婚は預貯金のようなもの。きちんと貯めたぶんだけ、将来引き出すことができるようになる。長持ちの秘訣はコスチュームよ」